視覚障害教育ブックレットvol.49 表紙

『視覚障害教育ブックレット』vol.49(ジアース教育新社)の巻頭言で『盲教育史の手ざわり』が紹介されました

2022年7月発売の『視覚障害教育ブックレット』Vol.49(ジアース教育新社)の巻頭言で、筑波大学附属視覚特別支援学校長の星祐子さんが、岸博実さんの2冊の著書『視覚障害教育の源流をたどる―京都盲啞院モノがたり―』(明石書店、2019年)と『盲教育史の手ざわり―「人間の尊厳」を求めて―』(小さ子社、2020年)を紹介し、歴史を現在に活かすことを呼びかけておられます。

今回、許可を得て、その全文をご紹介します。

以下引用

巻頭言 視覚障害教育の歴史に学び、明日の活力に

筑波大学附属視覚特別支援学校長 星 祐子

 視覚障害教育の歴史は、社会の中で「人間の尊厳」を求め、実現しようと果敢に挑んでいく、その情熱と確かな見通しをもった歴史である、と実感した岸博実氏の2冊の著書『視覚障害教育の源流をたどる 京都盲啞院モノがたり』『盲教育史の手ざわり 「人間の尊厳」を求めて』を紹介いたします。

 著者は、京都府立盲学校をはじめ、全国各地を訪ね歩き、埋もれていた多くの盲関係史料の発掘と収集に基づく地道で精力的な研究によって、新たな事実や知られていなかった史料・文章を掘り起こされました。京都盲啞院創立当時、職業教育として、盲人に伝統的な鍼按摩の他に、金網織、籐細工、そして記憶力を活用することによる法律家も例示していたという事実も示されています。また、著者が新たに発掘した訓盲啞院を楽善会から官立化となることが記された雨宮中平史料、終戦間際の京都府立盲学校の校長代行の方の日誌に綴られていた「盲学校へも機関銃弾3発余り落下した」との記載に見られる戦争被害や戦時中のことなど、埋もれていた歴史のページを紐解くように史実が示されています。

 いずれの時代にあっても、熱意と信念を持ち、果敢に挑んでいった先人達の弛まぬ挑戦とそれを支え、ともに生きていた人々の営みがあったこと、そのことを圧倒的な史料・文献に基づいて明らかにし、歴史に埋没していた人物・史実に新たな光を当てています。

 現在、特別支援学校(視覚障害)を巡っては、在籍幼児児童生徒の減少、重複障害のある子どもたちの割合の増加等の中で、一人ひとりの豊かな学びをいかに保障していくのか、という課題に直面しています。職業教育の在り方も問われています。また、通常の学級、特別支援学級等で学んでいる視覚に障害のある子どもたちも数多く存在しています。こうした中で、子どもたちが学びの実感や充実感が得られる教育をどのように創り出していくのかといった視点、地域社会の中で子どもたちを守り、育んでいく視点は大切にすべきことです。

 『盲教育史の手ざわり 「人間の尊厳」を求めて』の中に「長崎の多比良義雄校長の思い」の章があります。後に、長崎に投下された原子爆弾の犠牲となった多比良校長が、「盲聾啞児義務教育制度実施に就て」と題して地元の新聞に投稿(1937年1月5日付)した文面が掲載されています。その文面は、盲・ろう児の就学率が「僅に百分の三十に過ぎない」と嘆き、日本が「盲聾児九千人の義務教育実施に伴なふ国費の負担に堪えないのでありませうか!」と問うています。あの時代にあって、校長という立場で、教育へのひたむきな思いを訴える提言を、養護学校義務制を経て、現代に生きる私たちはどのように受け止めていくのかが問われているように思えます。

 先人達の強い信念と意志に基づく取組、教育に携わる者の責任と使命が伝わる著書を手に取り、紐解くことで、明日への活力としていきたいと思います。

以上引用

(『視覚障害教育ブックレット』Vol.49、ジアース教育新社、2022年7月より)
(小さ子社注―文中の引用箇所等は原本にあわせて訂正したところがあります)

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盲教育史の手ざわり : 「人間の尊厳」を求めて|小さ子社 京都の人文書出版社

明治初期から戦後までをおよその期間として、視覚障害教育の歩みをたどる100章。 永年視覚障害教育の現場に身を置きながら、…